2月のフィルム

四季折々あなたと居たい

わたしは猪狩蒼弥になりたい

猪狩くんに対して私が抱いている感情を最も端的な言葉で表すなら、多分これになる。「わたしは猪狩蒼弥になりたい」と。

好きな人、憧れの人のようになりたいと考えるのはあまり珍しいことではないかもしれないけれど、この言葉は大きな矛盾を孕んでいることに私は既に気付いている。猪狩くんについてある程度の知識のある方でしたらご存知でしょう、彼が常日頃から口にしている「俺は俺」という言葉を。俺は俺、I am I、自分は自分である以上、私は私であり私は猪狩蒼弥にはなれない。私が猪狩くんのようになる為には「私は私」であることを認めなくてはならないし、私本来の性格は猪狩くんとはとてもかけ離れたものであるため、私は私であると認めることは私は猪狩蒼弥ではなく、また、猪狩蒼弥のような人間になれる訳でもないという事実を認めることでもある。何だか哲学じみた話になってしまいつつあるけれど、つまるところ私は私であり、どう頑張っても猪狩蒼弥にはなれない、という至極当たり前のことを言っています。

 

先日、SODAの別冊に猪狩くんがソロで掲載された。ゆったりとしたシルエットに淡い色味のシンプルな衣装を見にまとい、本に囲まれた明るくて柔らかい世界観の中で撮影された猪狩くんは本当に美しかった。それと同時に「猪狩蒼弥の単独特集」という場であのような衣装、セット、雰囲気が使われたことが嬉しかった。独自のセンスと才能を持った強くて異端なアイドルとしての猪狩くんも素敵だけど、優しくて柔らかくて思慮深い1人の人間としての猪狩くんを見せてくれたような気がして。

テキストの内容は、いつもの猪狩くんだった。エンターテイメントやHiHi Jetsに対する、こわいくらいに真っ直ぐな想いがいつものように綴られていた。彼の語る話は常に一貫していて、言葉や言い回しに多少の違いはあれど、その内容は噛み砕いていけば全て同じような場所に帰結する。だから、私は彼の言動や信念を心から信じているし、彼のその姿に憧れている。

そしてその中で、ファンの自己肯定感について言及されている部分があった。彼は「自分を肯定することをファンに押し付けるつもりはない」と言う。これを読んでまた、やっぱこの人には敵わないなぁ、と思った。いっそ「ファンもそうあってほしい、そうあるべきだ」と言われていたら。そうしたら私は、結果はどうであれ彼の言葉通りそうあろうと一層努力をしていただろう。だけど猪狩くんはそうは言わなかったし、そこまで含めて私が思っていた通りの猪狩蒼弥だった。彼は自分が自分であることを大事にすることと同じくらい他者が他者であることも大事にする人だから。そしてそんな彼を見て私は尚更猪狩くんに「なりたい」の感情を拗らせていくのである。はぁ………猪狩蒼弥が好きだ………(唐突な語彙の消失)

 

猪狩くんはいつだって自分という軸を持っていて、だけど決して自分本位にはならない。自己を肯定する分だけ他者への気遣いや思いやりを人一倍持ち合わせている人だと思う。だから、彼の自己愛は見ていてとても清々しい。最近の猪狩くんを見ていて、より一層強く感じるようになった。

ツイッターや過去のブログをご覧の方なら知っての通り、私はまだ猪狩担を名乗るようになってかなり日が浅い。そんな身で言うのは差し出がましいのだが、過去の雑誌やYouTubeを通して見た昔の猪狩くんは今と比べて少し不安定な部分も見られるように思えた。これは猪狩くんに限らず、所謂「王道アイドル」からやや逸脱した立ち位置にいるアイドルの多くに一度は見られる現象なのではないかと思っているのだが、「王道」に対するコンプレックスのようなものを抱えていた時期があったのではないか、と私は推察している。今も「王道」とか「胸きゅん」とかを少し苦手そうにしている様子は垣間見れるけれど、でも昔の猪狩くんから感じる鋭くて脆い(ある種あの年頃の少年特有の)危うさのようなものは最近の猪狩くんからはあまり感じないような気がする。

これは私の勝手な憶測だが(というかこの文章自体がが私という1人の新規ファンによる憶測と推察と妄言の塊なのだけど)彼はどこかのタイミングで「なれない」を受け入れたのではないかな、とか思ったり。結局どこまで行っても自分は自分で、それってつまりどこまで行ってもなれないものはどうしても存在するってことだと思うんですよね。

ただ、その一方で猪狩くんって凄いな、と思うのは好きに自分を寄せるということもしっかり実現している点だ。最近の伝記で彼は100個の好きな物について語っているが、そこには「パイオニア的な人、人と違うことをしている人が好き」だと書いてあった。恐らく読んだ人の多くが感じたと思うが、これは猪狩蒼弥という人物にも少なからず当てはまる特徴だと思う。

それから、彼は短所を聞かれると基本的に「ない」と答えているが、その回答について詳しく説明している動画がHiHiの日に挙げられていた。曰く、短所だと自覚した点は直す努力をしているから、自分から見た自分に短所はないのだと。彼はさも簡単そうに言っていたけれど、それは決して簡単な事ではない。駄目だなぁと自覚しながらもズルズルと直せずにそれを引きずってしまうのが大半だ。駄目だと思ったから直す、直したから現時点で自認している短所はない。文字にすれば簡単なことだが、それを実現することができるのは猪狩くんの自己を客観的に見る力と自分を好きでいる為の強さがあってこそなのではないかな。猪狩くんが自分を好きでいられるのは、あるがままの自分を認めるだけでなく、好きになれる自分でいることへの努力を怠っていない点も大きいのではないかと、最近改めて思うのだ。そしてやっぱり同時にこの言葉が過ぎる、「この人のようになりたい」と。

 

さて、何だかんだ2000字をそこそこ超えるくらいの文章を書いてきたが、結局のところ私が言いたいことは「猪狩くんすげぇ」と「猪狩くんになりたい」の2点に尽きる。(一方で私は猪狩くんに対して「可愛い」「大切」「守りたい」みたいな気持ちも抱いているのだけど、その話はまたの機会ということで。)そして、冒頭でも語った通り私は猪狩くんになりたいと思う一方で猪狩くんになれないことも自覚している。けれど、猪狩くんに対する憧れの感情が少なからず私を変えているのもまた事実で。例えば、私は猪狩くんを好きになってから既に3本程猪狩くんの作品についてのブログを書いている。他のテーマも含めると更にである。私はアウトプットが大の苦手であり、加えて極度の飽き性な為、ここまでの数のブログを完成、公開まで持っていけたことは私にとってかなりの異常事態だったりする。なのでこれはアウトプットが上手な猪狩くんに憧れた私に訪れた明確な変化だ。とはいえ、公開した文章はどれも正直完璧に納得のいく出来にはなっていないし、まだ完全に自分のアウトプットを認められるようにはなっていないのだけど。でも、完成まで持って行ける確率が格段に上がったところは、少し褒めてあげてもいいのかなと思ったりもする。こうやって少しずつ自分のことを認めていけるようになればいい。

きっとこれからも猪狩くんはどんどん成長して凄い人になって、私達にワクワクやキラキラをたくさん届けてくれる。その度に私は猪狩くんのようになりたくて、でもなれなくて、その2つが捻れあってぐちゃぐちゃになった感情をずっと持ち続けるんだろう。でもこの拗れた気持ちは意外と私のためにもなったりするのかもしれない。何より、この気持ちを自覚する度に私にとって猪狩くんは益々大好きで大切な存在になっていく。難しい言葉は抜きにして、それって凄く楽しいし素敵なこと。

だからとにかく、猪狩くん、貴方を好きになって、本当によかった。

好きなもの100個書いてみた

HiHi Jetsに感化されたオタクが好きなもの100個書いてるだけのブログです。ジャニーズに関わる固有名詞は敢えて書いてないよ!

↓まだ見てない人がもしいたら、まずはまずこちらを見て下さい↓

https://youtu.be/hk8-eMstzao

 

1.エンタメ

…物心ついてからずっとこれのお陰で生きてるみたいなとこある。

2.音楽

…演奏するのも聴くのもずっと好き。これについて触れずに私の人生の話しようと思っても多分無理がある

3.美味しいものを食べてる時間

…食へのこだわり、大事

4.ライブ

…バンドでもアイドルでも、あの空気が好き

5.二度寝

…人類の幸せ

6.カフェラテ

…どこ行っても飲んでる気がする

7.the cabs

…生で見た事こそないけれど、そしてきっともう二度と見れないけれど、私がこの世で一番好きなバンド。

8.アイドルマスター

…アイドルという概念に惚れ込んだきっかけ

9.高橋國光

…cabsの元ギター、今はosterreich。私がこの世で一番好きなバンドマン

10.チーズケーキ

…おいしい。

11.柴犬

…かわいい。

12.アカシック

…これまた大好きなバンド。歌詞が心臓に刺さって抜けない。

13.変わったデザインのシャツ

…柄シャツとか襟の形がちょっと変わってたりとか。見つけるとつい買っちゃう

14.ワンピース(服の方)

…クラシックでレトロでちょっと地雷感のあるデザインが好き

15.ラーメン

…こってりしたのもあっさりしたのも好き

16.同性間のクソデカ感情

…BLでも百合でもない「それ」

17.クロノトリガー

…多分一番好きなゲーム

18.ハンバーグ

…デミグラスソースのシンプルなやつが好き

19.派手な色のリップ

…塗っただけで強くなれそう

20.耳にピアスがたくさんついてる人

…男性でも女性でも

21.ドラクエ8

…世界観と仲間キャラの個性が好きだった。ククールは一生推す

22.初めて行く土地

…駅や空港降りた瞬間のワクワク感

23.night museum/カラスは真っ白

…独特の浮遊感が最高に好き、夜道で聞きたい曲

24.少人数の飲み会

…大勢でワイワイより深い話が聞きたい派。

25.ベースの音

…聞いてて心地良いんだな。

26.クローバー/UNISON SQUARE GARDEN

…絵本みたいな歌詞と優しいメロディーラインが好きです

27.タイツ

…冬場はほぼ100%履いてるし他の女性もみんな履いて欲しい

28.魔人探偵脳噛ネウロ

…最高の漫画、最高の最終回、男女バディ/異種族バディの頂点

29.レトロなカフェ

…落ち着くしテンション上がる

30.はやみねかおるさんの小説

…児童書だけど未だにたまに読みたくなる、私の原点

31.エロティシズム/アカシック

…歌詞よりも音を重視しがちな自分にここまで歌詞が刺さる曲って珍しい

32.自分が行ったライブのDVD

…思い出や熱気をそのまま閉じ込めた感じが好き

33.輪るピングドラム

…一時期一生考察漁ってたし自分でも考察ブログを試みたことがあるアニメ

34.テニスの王子様

…推しは幸村精市

35.派手な柄のスカート

…長めの丈で裾がひらひら揺れるのが好き

36.TIGER&BUNNY

…同性バディの頂点

37.ドラクエ6

…ほんのりダークな世界観がツボ、夢と現実がテーマなのがなんかいいなあって

38.飲み会帰りに好きな音楽を聴きながら夜道を歩く時間

…ちょっと音楽に乗ってみちゃったり口ずさんでみたり、傍から見ると不審者

39.トーマ

…一番好きなボカロP、私の中学時代

40.萩原雪歩(アイドルマスター)

…永遠の担当アイドル

41.ペットボトルのミルクティー

…たまに無性に飲みたくなります

42.牛タン定食

…プチ贅沢って感じがする

43.オムライス

…デミグラスソースが好き

44.電車に座ってうとうとしてる時間

…意外と好き

45.ルーンファクトリー4

…鬼のようにやり込んだゲームです

46.your eyes have all the answer/the cabs

…葬式で流して欲しい

47.チェンソーマン

…最近めちゃめちゃハマってる漫画。地獄を見たい時におすすめ

48.ユリ熊嵐

…後半5話くらいは多分毎話泣いてた、しんどいかわいいしんどい

49.夏のバイト帰りに歩きながらお酒を飲む

…ハッピーになれます

50.夏の夜中に食べるアイス

…絶妙な罪悪感と幸福感

51.夏の夜

…音楽を聴きながら回り道して帰りたくなる

52.ライブでのペンラ芸

…歌詞に合わせて色変えたりするやつ、一体感が好きだし映像で見ても綺麗

53.パープル系のアイシャドウ

…意外と馴染むし適当に塗ってもお洒落に見える

54.油そば

…定期的に摂取させてほしい

55.IKEAのサメ

…毎晩抱えて寝てる

56.Twitter

…身近過ぎて忘れてたヨ、愛してる

57.オタクの長文ブログ

…一生読んでられる、皆もっと自分の抱えるクソデカ感情を文字にしてくれ

58.ピアノの音

…聞いてると落ち着く

59.なんの予定もない日

…一日中ダラダラ過ごせる幸せ

60.カービィ

…かわいくてつよくてかわいい

61.ククール(ドラクエ8)

…私の性癖を狂わせた男

62.東京事変

椎名林檎って天才だよね

63.チョコレート

…甘すぎないやつが好きです

64.梅干

…おばあちゃんが漬けたやつがおいしすぎる

65.香水瓶

…香水そんなに付けないけど瓶の形が可愛くて集めたくなる

66.オール飲みの午前4時頃の雰囲気

…独特な気だるさと突然ディープな話が始まる感じがわりと好き

67.散歩

…無意味に歩きたくなりがち

68.風の憧憬

クロノトリガーの中世時代のワールドマップでのBGM、一生聞いてられる

69.99 nights/四条貴音

アイマス曲で間違いなく一番好き

70.古着屋

…これだ!!ってものに出会えた時の幸福感

71.中途半端な額がお釣りなしでピッタリ払えた時

…謎の達成感がある

72.一人カラオケ

…時々無性に行きたくなる

73.ズートピア

…名作。ニックとジュディの関係性で論文書ける

74.徳川まつり(アイドルマスター)

…「嘘も最後まで突き通せばそれは本当になるのです」徹頭徹尾自分の理想を貫く最高のアイドル

75.作品考察ブログ

…伏線が多かったり世界観が複雑な作品は考察ブログを読むところまでが1セットだと思ってる

76.湯船に浸かってる時間

…何も考えずにひたすらぼーっとしてる時もあれば何かを考えすぎている時もある

77.ショートブーツ

…秋冬の足元はショートブーツ一択

78.旅館の朝食

…普段朝はあまり食べられないけどこれは無限に食べれる

79.他人の恋バナ

…幸せなのも不幸なのも

80.オペラ座の怪人

…曲もストーリーも好き、何度でも見たい

81.髪型、髪色を変えること

…気分転換になるしストレス解消にもなってる気がする、特に髪色は頻繁に変えがち

82.給料日直後の1人ランチ

…いつもよりちょっと豪華なものを食べに行く

83.ディズニーシー

…歩いてるだけで楽しい

84.コンビニのホットスナック

…ついつい買っちゃう

85.夜の丸の内周辺

…近未来感あってテンション上がる(田舎者並感)

86.金髪が似合う人

…男性でも女性でも

87.まどろっこしい言い回しの文章

…変な比喩とか暗喩とか嫌いじゃない

88.満員電車で目の前の席が空いた瞬間

…"勝ち"を確信する

89.金曜日の夜

華金だ!!!

90.カラーマスカラ

…下まつげにボルドー系の色を塗るのが好きです

91.傘を差さなくても大丈夫なくらいの雨

…ちょっとだけ濡れながら歩く

92.バーゲン

…ビルの中をしらみ潰しに見て回る派

93.potage/tricot

…私の持つ「好き」への価値観に限りなく近い曲

94.縁日で売ってる水飴

…チープな味とあの雰囲気が好き

95.ゲーム実況

…1度見始めると止まらない、時間泥棒

96.ドヴォルザーク交響曲第8番

…特に3楽章が好きです

97.ドライフルーツ

…鞄に常備しておくと幸せになれる

98.シネマ/パスピエ

…ボーカルの声と歌詞が相まって非現実的な感じが好き、そこはまるでユートピア

99.ネットで都市伝説や昔の事件を調べること

…たまに夜中に調べ始めると止まらなくなる

100.買ったばかりの服を初めて着る日

…何日か前からこの日に着よ〜って決めてるタイプ

恋に落ちる音がした―矢花発、本髙経由大光落ちで侍の推しが決まった話―

使い古された陳腐な言い回しですが、あえてこの表現を使いたいと思います。私はこの夏、間違いなく恋に落ちる音を聞いた。

その御相手は、佐々木大光くん。7 MEN 侍のドラム担当で最年少、愛すべき金曜日の狂犬です。

元々私はSixTONESHiHi Jetsに推しと自担がいる為、2グループ共に縁の深い7 MEN 侍のことは気になっている存在ではありました。ですが、長年様々なジャンルでオタクをやってきた私は、一度手を出すと瞬く間に落ちていく自らの習性を知っているからこその防衛策として、かなりフットワークの重いオタクとなっていました。ちょっと気になる人がいてもその程度で手を出してこれ以上軽率に沼を増やしたくない、という気持ちがまず働くようになってしまったんですね(まぁ大体の場合これは悪あがきに終わるんですが)。

 

さて、そんな感じでストからのYouTube引き継ぎ動画、ハイハイとのコラボ動画などから侍に対して面白いグループだな〜と好感を抱きつつも離れた場所から静観していた私に一つ目の転機が訪れます。

それは自粛期間中に挙がった一つの動画。

「矢花黎【ひとくちWoofer】1人4役セッション!」https://j-island.net/movie/play/id/5159

私はジャニーズにハマる前からバンド音楽を聞くのが好きで、そこそこマイナーなインディーズバンドも含めライブを見に行ったり自身も趣味として軽くベースを嗜んだりしていました。逆に、だからこそジャニーズにはあまりバンドの要素を求めていなかったという側面もあったのですが……矢花くんがジャニーズの中でも指折りの音楽の才能を持った人間であることは薄々ながら存じていたし、東京ドームのステージ上で暴れ回る姿もかなり強烈に記憶に残っていた為、試しに動画を再生してみることにしました。

すると、なんということでしょう。

予想を越える演奏技術も然ることながら、私が最も驚いたのは動画の右から左へと一定速度でコメントが流れていく、デジャヴを通り越し実家のような安心感すら感じる独特の編集でした。私の中学生、高校生時代は2次元とニコ〇コ動画に捧げたといっても過言ではないのですが……まさかお主、同じ世界の住人か???と。

そこから俄然矢花くんに興味を持った私は、とりあえずYouTubeを開き7 MEN 侍の動画から気になるものをいくつか見ていくことにしました。何を見たか完璧には覚えていないのですが、とりあえず矢花くん対他メンバーの楽器の音当てクイズ回、メンバーそれぞれの人柄がわかりそうな77の質問回、グループ内の関係性が見えてきそうな焚き火回、嶺亜誕生日回を見たことは覚えています。そして矢花くんの意外と常識人なところやメンバーに振り回されつつも穏やかな空気を絶やさない姿にきゅんとしつつも、その辺りで私の中にはもう一人気になる人物が浮かび上がってきました。そう、本髙克樹くんです。

元々ご飯を食べるのが大好きな頭脳派ラッパーという時点で猪狩担である私が気にならないはずがない存在でした。彼がバチバチにラップをしている姿は侍のYouTubeを見るようになる前からチーム樹ラップ(恐らく素顔4の円盤で一番多く再生している曲です)で何十回と見てきたのですが、YouTubeでは基本的にぽわぽわしていてなんか可愛い、そしてちょっと(いやかなり)不憫。こんなの好きにならないはずがありません。あと顔がいい。

 

そんな様子で矢花くんと本髙くんの間を揺れ動いていた私に2つ目の転機が訪れます。それは、6月に行われたHappy Live、そして7月上旬満を持して我が家に届いた裸の少年のDVD。そこで私は7 MEN 侍のバンドスタイル以外のパフォーマンスを初めてまともに見たのです。Happy Liveの時点ではまだ特定の誰かではなく全体(強いて言うなら本髙くん)を見ている感じでしたが、サマステの映像を見ている途中で私は自分の目が特定の人物を追いがちなことに気が付きます。そしてその人物こそが……お待たせしました、佐々木大光くんだったのです。

まず、めちゃくちゃステージ映えするお顔だなと思ったことをよく覚えています。表情の作り方が上手なんですかね……とにかく、YouTubeでの狂犬っぷりしか見てこなかった私としてはかなり衝撃でした。えっっなにこの子めちゃめちゃ美少年じゃん……これがギャップというものか……。そして言うまでもないがダンスが上手い。身体の使い方が凄く好みだなと感じました。体格の良さがしっかりと活かされている。しかも何……瑞稀くんとのコラボ曲である「真夜中のシャドーボーイ」、これ大光の振り付けなの……?天才じゃん……。

ですがこの時点で私はまだ、謎の親近感と音楽の才能からついつい気にかけてしまう矢花くん、人柄と顔がとにかく好みな本高くん、パフォーマンスが性癖にぶっ刺さる大光くんの三人の間で揺れ動く、さながら乙女ゲームの主人公のような気持ちでいたのです。思えば私はSixTONESのこともHiHi Jetsのことも推しができたことをきっかけにグループ自体も好きになる、という流れで好きになっていたので(更に昔に遡ると2次元アイドルの推しも全てこのパターンでした)、推しが定まっていないけれどグループが好き、という感覚は少し不思議な感じでしたね……。

 

そしていよいよ3つ目の転機が訪れます。察している方もいることでしょうが……Summer Paradise 2020の7MEN侍公演、通称サムパラです。プライベートや仕事の都合上12日15時からの1講演しか見ることができなかったのですが、そこで私は一羽の不死鳥と出会いました。やべえという前情報は薄々聞いていたのですが私は原曲を知らなかったこともあり、それよりもどちらかというと本高くんが「T.A.B.O.O」をやったことやSixTONESの「Rollin'」がカバーされたことへの衝撃と期待が上回っていました。そして、前半戦の矢花ソロ〜ドラムソロ~T.A.B.O.O~Rollin'の怒涛の俺得ラッシュで半ば燃え尽き、ダンスパートの大光に目を奪われ、「罪と夏」のわちゃわちゃしたかわいさに殺された私の頭に「大光ソロやべえ」のという薄らとした前情報は最早ほとんど残っていなかったわけです。そんな、ノーガードの状態に攻撃力カンストのあれをぶつけられたらどうなるか、サムパラ視聴済みの皆様ならお分かり頂けることでしょう。

死にます。

曲が始まり彼の姿が画面に映し出された瞬間、脳味噌をぶん殴られるような衝撃と共に私は彼の作る世界に連れていかれました。一羽の不死鳥が抱える悩み、苦しみ、そして希望を目指し這い上がり羽ばたいてゆく美しく気高い姿。虜になるなんて表現が生易しく感じてしまうくらい、私は画面にのめり込むようにしてそのパフォーマンスを見ていました。前述の通り、大光のダンスの技術の高さは既に知っていたはずでした。ですが、その時までの私はきっと彼のスキルしか見れていなかった。彼の持つ表現力の高さに気づいていなかったのです。この人をずっと見ていたい。そう心から感じた瞬間でした。

その後の曲からはもう自然と、今までのような何となく目に入るという感じではなく、彼の姿をずっと必死に追っていました。「I screem night」でカメラアピールをする時のアイドルらしいキラキラとした表情に魅せられました。他のメンバーが抜かれている後ろにぼんやりと映り込み、必死にドラムを叩く姿が心からかっこよく見えました。バンド曲だと楽器の特性上どうしてもソロパートが少なくなりがちな中、「シンデレラガール」のAメロを歌う甘くて少しあどけなさの残る声が好きだと感じました。一番後ろからメンバーの背中を見つめる優しい表情に愛しさを覚えました。最後の「サムダマ」でカメラを見つめる満面の笑みが頭から離れなくなりました。きっとあの瞬間、私は恋に落ちていた。

サムパラが終わったあとも、佐々木大光のことが頭から離れませんでした。前述の通りオーラスは見れなかったのですが、その日の夜から彼のことをもっと知る為にYouTubeに上がっているファンの方がまとめた動画や侍tube、ISLAND TVなどをひたすら追い続けました。落ちる前から薄々知っていたものの、見れば見るほど彼の真面目な部分が見えてくる。既に見たことがある動画でも大光くんに集中して見てみるとまた違った発見があったり、前見た時とは違う印象を感じたり。正直なことを言うと元々私は「パフォーマンスは好きだな、でも、(ビジネスであるのは当時からわかっていたといえ)ああいった破天荒なキャラクターは見てて楽しいけど推しにはならないかな……」とか思っていたんですけどね……。そんな感情は何処へやら、恋って怖いですね。

ちなみに私が彼に落ちたと自覚した最後の一撃は大光くんが自粛期間中ISLAND TVにあげていた質問回答動画でした。彼1人の声をあれほど長い時間聞き続けることのできる動画はかなりレアだと思うのですが、聞いていて凄く心地よくて、要するに彼の声のトーンや話し方がめちゃめちゃ好みだということに気付いてしまったんですね……。あれは完全に恋でした……。大光くんは自身の声に対して少しコンプレックスを抱えていると語っていたけれど、こういう私みたいな人もきっとたくさんいるはずだよ。

 

さて、そろそろまとめに入りましょう。お気付きの方もいるかもしれませんが、私はこの記事の中で敢えて"恋"という単語を何度も使っています。ここまで大光に心を奪われておいて尚、私の"自担"は猪狩くんで、これは一切揺らいでいません。Twitterなどで再三言っているのですが、私にとって猪狩くんは憧れと尊敬と信頼と好奇心と羨望と嫉妬と保護欲求が混ざった"愛"を向ける対象であり、唯一無二の"自担"です。

一方で大光くんに対して抱いている感情は何なのだろうと考えた時、恋とリアコ枠という2つの言葉が浮かんできました。そして、わりと動揺しました。私は長年オタクをやってきているのですが、推しに対してリアコ的感情を抱いたことはきっとこれが初めてでして。正直この感情をどう処理すればいいのか少し悩んでいます。勿論本当の本当にリアルで付き合いたいとかって気持ちとは少し違うし、何なら同担拒否的感情も全くないんですけど、でも大光に対する気持ちを一番簡潔な言葉で表すなら"恋"が一番近いのかな、と感じました。この感情にどう向き合うべきか悩んでいる部分も含めて、これは恋なのかな、と。

とにかく今は佐々木大光という人間のことをもっと知りたいしもっと見ていたい。なんかこういうの、恋の始まりって感じがして楽しいですね。7 MEN 侍のことがグループとして好きだというのは変わっていないのですが、ようやくその中で推しと呼べるような存在が見つかって、彼らの活動を追いかけるのが更に楽しくなったように思います(これは私個人のオタクとしての特性上の問題ですが、1人確固たる推しがいる上で箱で推せる環境が一番居心地がいい……)。

それからサムパラについて、先程は大光くんのことばかり書いてしまいましたが、彼ら6人全員のバンドとアイドル双方向への熱意や拘りが存分に感じられる非常に楽しくてワクワクする公演でした。このグループは絶対大きくなる、そう確信を持たせてくれるような最高の時間だったと、自信を持って断言できます。

 

長くなりましたので最後に、佐々木大光くんへ。

さいっっっっっこうに、かっこよかったよ!!!!!!!(YouTube舞台裏の某シーンを見て)

klaxon

※オールフィクションです。実在の人物などとは一切(とは言い難いものの基本的には)関係がありません。

 

夏の夜中というものは総じて寝苦しいものであるが、特に今日は郡を抜いている。お盆休みに浮かれて生活リズムが狂っているのもその原因の一端を担っているのだろうか。して、真夏の夜という言葉は何処か甘美な響きを含んでいることもまた事実。例えばそう、寝付けないからと言い訳しつつ部屋着の上に薄手のパーカーを羽織っただけの簡単な服装で街を歩き回ってみたくなるような。そこまで思考した私のすぐ側を自転車が通りがかり、生温い風が頬を撫でていく。昼間の刺すような陽射しは跡形もなく消え去ったものの夏特有の熱気と湿気を帯びた空気は健在だ。いくつかの路地を出鱈目に抜けた先、ふとひとつの看板が目に留まる。どうやらショットバーのようだ。近くの雑居ビルの中に入っているらしい。こんなところに店なんてあったかしら?

バーで1人酒を嗜むなんて洒落た趣味は生憎持ち合わせていない。けれど、どうせ明日も休みだし。またしても言い訳がましく呟いたわたしの足を看板の指す方に向かわせたのは、きっと夏の魔法ってやつだと思う。

 

こじんまりとした店内は静かで薄暗かった。ライトアップされた水槽の中で金魚が泳いでいるのは店主の趣味だろうか。ざっと見渡した限り、先客は恐らくひとりだけ。カウンターの一番窓際に座っている。わたしはそこから少し距離を開けた、寡黙そうなマスターが手で指し示すカウンターの真ん中辺りに腰掛けた。お酒の知識は皆無に等しいので、とりあえずおすすめで飲みやすいものを注文する。ほどなく目の前に置かれたグラスの中身は黄みがかった白色の液体で上に缶詰のチェリーが添えられ、可愛らしい見た目をしていた。一口含むと南国らしいフルーツの甘みが口に広がって、なるほど、確かにとても飲みやすい。

ふと、視界の端にもう一人の客の姿が映った。緩めのシルエットのパーカーをラフに纏った青年と呼べるほどの若い男性。薄暗い店内で顔ははっきりと見えないが、手元のスマートフォンから発される光が形のいい輪郭をぼんやりと映し出している。なぜか彼の前にはグラスは置かれていなかったが、気だるげな様子でカウンターに腰掛けスマートフォンの画面を見つめるその姿はこの静かな店内に妙にマッチしていて、まるで映画のワンシーンのよう。

カタン、と硬い音がしてわたしの意識は現実へと引き戻された。青年が訝しげにこちらへ顔を向けている。先程の音は彼がスマートフォンをカウンターに置いた音だったらしい。知らない人の姿をまじまじと見つめるなんて、随分と失礼なことをしてしまった。

「この店ははじめてですか?」

唐突に青年が口を開く。思いの外はっきりとした、よく通る声だ。

「はい、あなたは……?」

「たまに来るんです。眠れそうにない日とか、道に迷った日とか」

「へぇ、」

彼が手元の方に落とした目線、その先から微かに物音が聞こえる。目を凝らして見るとどうやらその手はトランプを弄んでいるようだ。

「例えば、明日自分に羽がはえたとしたらどうしますか?」

「え?」

突然の問いかけに思わず頓狂な声が漏れる。

「欲しいと望みつつ手に入るはずがないと諦めていたものが手に入ってしまった時、人はどうするんでしょうね。」

「えーと、嬉しいし、喜ぶ……?」

「手に入れてしまったあとに訪れるのは、失うことへの恐怖。失うことを恐れる気持ちは時に別の大切なものを奪い去ってしまうかもしれない。」

「それは……。」

「手に入ったものを必死に守り、代償として元から持っていたものを失った時、そこには望んでいた世界はあるんでしょうか。」

「……。」

「天の気まぐれで羽を手に入れた人間の行く末は天(そら)に昇るのか天(そら)に堕ちるのか、どっちなんでしょうね。」

パタパタと軽い音を立てて彼の手から床へとトランプが滑り落ちていった。

 

翌日、夜が更けても目が冴えたままのわたしはふたたび、半ば衝動的にあのショットバーの前に来ていた。眠れない日にはここに来ると言った彼のことを思い出しながら。

扉を開けると聞き覚えのある話し声が耳に入ってきた。ワンテンポ遅れてわたしの目は彼の姿を捉える。さり気ない様子で昨日と同じ席に座りそっと横目で盗み見ると、どうやら彼は電話をしている様子だった。会話の内容はよくわからない、いや、何となく聞こうとしてはいけない気がした。居心地悪く身じろぎするわたしにマスターがグラスを差し出す。暗いブラウンと白のクリームのコントラストに口を付けるとカカオの香りが広がった。電話を続ける彼の前には相変わらずグラスはない。

ブラインドの隙間から人工灯の光が覗く。都会は真夜中でも明るい。そこから取り残されたような、まるで小さな水槽の中のような店内で、揺れるわたしの意識は昨日の彼を思い返していた。あの時の彼はわたしを見ているようで、多分わたしに向かって語りかけてはいなかった。彼の声の向く先は恐らく彼自身だったのだ。今の彼は、どうなのだろう。電話越しの誰かに何かを語りかけているのだろうか、それとも、電話越しの誰かは昨日のわたしと同じように彼が彼に語りかける為の装置に過ぎないのか。

なんつーデタラメ。

解像度の低い彼の言葉の中、何故かその言葉だけが妙にはっきりと耳に届いた。

 

その次の日、外は雨だったにも関わらず、わたしはまた同じバーに来ていた。扉を開けるとカウンターの中には誰も居らず、窓際にあるテーブル席にあの青年が座っている。椅子の背もたれを前にして腰掛けトランプの札を弄ぶ彼の姿はどこか、昨日までよりもずっと幼い少年のように見えて、思わず声をかけてしまった。

「あなたはいつもここにいるね」

「そういう貴方こそ、もう3日も連続でここに来ている。」

「なんだか、眠れなくて」

「奇遇だね、俺も。でもここにいると何だか少し眠くなってくるような気がしませんか?」

「そうなの。何だかモヤモヤして眠れなくて気づいたら足が動いてて、でもここにくると何故か眠れるようになる。」

「世の中はさ、出鱈目ばっかりで嫌になりますよね。その癖正直に言った言葉は時に歪められたり」

「まただ。君はいつもこうやって突然難しい話を始めるの?」

「難しいことは言ってないですよ。ただ俺は考えているだけで。眠れないと、どうしても考えてしまわない?」

「何かが怖いの?」

「どうしてそう思ったんです?」

「一昨日の羽の話もさっきの話も、君はずっと何かを恐れているような気がする。」

「恐れているといえばそうなのかもしれない。けれども恐れがない人生なんてあるのでしょうか?」

彼の問いかけを遮るように窓の外からクラクションの音が聞こえ、規則的に窓を叩いていた雨音が乱れる。青年は椅子から立ち上がると今度は丸テーブルの上に腰掛けてブラインドの隙間から窓の外のビル群を見やった。

「そりゃあ恐れはあります。俺だって失敗は怖いし、それでも失敗してしまう時はある。でも、その失敗自体は消せなくとも、失敗したあとにどうなるかは自分次第、だと思いませんか?」

彼の言葉は心做しか先程までよりも感情が滲んでいるようで。

「そうなの……かな」

「俺はそう思います。たとえそれが上っ面だけの理想でも、その先にあるのが逆境でも……」

「……」

「勿論、俺がそう信じたからといって貴方が信じる必要もない。俺は俺、貴方は貴方なので。」

「わたしはわたし、あなたはあなた……?」

気付けば雨音は止み、ブラインドの隙間からは朝日が漏れ出していた。

「朝だね。」

青年に向かって声をかけるも返事はない。その横顔はただ静かに都会の朝を見つめている。

バーの外に一歩踏み出すと、変わらない筈の東京の街は夜中のそれと随分違って見えた。何となく、もう彼と会うことはないような気がする。わたしがこの場所を訪れることもきっともうないだろう。さっき彼が言ったように彼は彼だしわたしはわたしだ。だが、それと同時にきっとあの空間において彼はわたしでもありわたしは彼でもあった。多分わたしたちは互いに互いの姿を通して自身に問いかけていたんだ。

寝苦しかった真夏の夜はきっと終わった。

 

アイドルが表象する世界

私が惹かれるアイドルの共通点を1つ挙げるとしたら、それは「世界観の構築とその世界への没入に秀でている」という点だと思う。元々自分はアニメ、漫画、ゲーム、小説といった創作物が好きで、年齢と共にいくらか落ち着いたものの空想癖のある人間だ。実在するアイドルにもどこか幻のような、フィクションのような、そういった非現実性を求めている節がある。

今日、7 MEN 侍のサマパラ配信を見た。佐々木大光のソロパフォーマンスに心を奪われた。18歳になって数ヶ月、グループ内最年少の彼がステージにたった1人で立って、ダンスという自分の武器を持ち、強くて美しくてどこか脆さも感じる幻想的な不死鳥を演じきったその姿は私がアイドルに求めているものにあまりにもドンピシャだった。少年と青年の狭間にいる今の彼が、今の彼だからこそ作ることのできる魅力がこれ以上なく詰め込まれたステージだった。あの空間が彼の色に染まったあの時間を私はしばらく忘れることが出来ないと思う。

ある意味、猪狩蒼弥のfence以来の衝撃だったかもしれない。きっと猪狩くんも大光も私が上に挙げた条件には当てはまるけど、正確には多分この2人の性質はいくらか異なっている気がする。猪狩くんは世界を自分の側に引き寄せているように思えるのだ。作った世界はあくまで曲そのものを土台としているが、そこから彼はその世界を自分に引き寄せている。曲に合わせて構築した世界の下書きを自分の色に塗りつぶし、そこに自ら入り込んでゆく。

一方で大光は徹底的に自分が世界に染まるタイプに思えた。曲に合わせて完成させた世界に自らもそれと同じ色に染まり世界に溶け込む。溶け込んではいるが、その世界の中で自分にしか出来ない動きをとることで世界から彼が(良い意味で)浮かび上がってきて見える。

2人は、そしてそれ以外の私が好きなアイドル達も、それぞれ違ったアプローチ方法で世界を作り、それに没入する。その姿は本当に美しくて、羨ましい。

というか、彼らはどうやってああも美しい世界を作るのだろう。私は創るという行為が好きで、苦手だ。自分の思うような世界を作れたらどんなに素敵なことだろうと思っても、実際に作ったものを見てみると何かが足りない。作る途中で行き詰まり、最終的にはどこかで見たキメラのようになってしまい、その度に自分の発想のつまらなさに辟易してきた。そして多分その反動として私は作ることに特化したアイドルを"好き"になる。この"好き"の中には憧れ、尊敬、希望、それから嫉妬や羨みとかっていった色々なものも含まれていて、多分外側の好きの2文字からは見えないくらいに中身はぐちゃぐちゃしている。だからこそ私にとってこの感情はとても大切で、大きな活力になっているんだと思う。

これからもきっと彼らは私には想像もつかないような世界を表象してくれるんだろう。私にはそれを客席で見てることしか出来ないけれど、でも逆に客席からそれを見る機会を、権利を与えられていることは幸せなことだ。彼らの心ひとつでもう二度と彼らのパフォーマンスを見ることが叶わなくなってしまってもおかしくない、そんな世界だから。多分この先も私は彼らの作る世界を見る度に果ての無い高揚感と憧憬に包まれ、そしてその中に少しの嫉妬や悔しさを感じるんだと思う。

 

猪狩蒼弥『堕天』に対する雑感

0.はじめに

2020年6月14日にHiHi Jetsの猪狩蒼弥が突如ブログコンテンツたる「伝記」に投げた爆弾、それが『堕天』である。そこに記されていたのは今から五百年後の、あるかもしれない未来の話、「天」によって選ばれた人類の一部が背中に羽を受け、「天人」と呼ばれるようになった世界の話だ。主人公は愛する「彼女」と二人で暮らす、どこにでもいるような「平均的」な青年だった、ある日「天人」になるまでは。選ばれた彼は「声」に従い多くのものを得て、また、大切なものを失って、最後は月に見下されながら文字通り堕ちていく。そんなお話。

猪狩くんは何を思ってこれを書いたんだろう、これを公開したんだろう。深い意味なんてないのかもしれないし、何らかの意図があるのかもしれないし。なんて、考えたところで私は猪狩蒼弥ではないのだからわかるわけがない。けれど、彼が書いたこの文章を私の精一杯で考えてみたくなった。きっと絶対猪狩くんはこんなもの望んでないんだろうけど。もし万が一億が一、何かの間違いで猪狩くんがこのブログを見つけてしまったら。ここまで読んで(何ならここまですら読まずに)鼻で笑ってブラウザバックしてくれることを祈ります。

 

1.「僕」と「彼女」と救済について

羽を授かった「僕」には声が聞こえるようになった。それは「とても落ち着く声」「威厳さえある声」だという。声はいつだって「僕」を正解に導いてしまう、そんな代物だった。普通の人間がある日そんなものを手に入れてしまったらどうなるか?決まっている、思いあがって、それに溺れるだろう。それは作中の「僕」も例外ではなかった。主人公として描かれている「僕」の人間性は極めて普遍的なそれに感じた。良心も野心も劣等感も全て人並みに持ち合わせていて、きっとほとんどの人間がここで描かれる「僕」に近い部分を持ち合わせていることだろう。

非常に普遍的な人間である彼は、ある日突然「天」に救われた。と、思い込んだのだ。実際、羽を手に入れ力を手に入れた時の「僕」は文字通り"天にも登る心地"だったに違いない。しかし、やがて声の力に溺れいった彼は大きな過ちを犯す。それは、愛する彼女を捨てること。「僕」が失ったものは彼女だけではなかった。その時から彼は声に抗う力を、選択する自由を失った。彼女という足枷を捨てた「僕」が代わりに得たものとは「天」から垂れる透明な操り糸だったのではないかな、きっと。そして、糸に導かれるままに高く高く飛び立った彼に糸の存在を気付かせたのは他でもない彼女の死だった。彼女の死が、彼に「天人」の歪に気付くきっかけを与えたのだ。理を解した「僕」は天へ昇った。そこで目にしたものは無数の「羽人間」たち。彼らもまた、「僕」と同じような経緯を経てそこへたどり着いたのだろうか。おそらくこれを読んだ多くの人が感じていることであろうが、ここで今まで「天人」と称されてきたモノが「羽人間」と称されるところがおぞましくて美しい。今まで「天人」に対して抱いていた神聖で崇高なイメージが無数の羽虫のような、グロテスクさすら感じるイメージに一変した瞬間だった。

そして、そんな「羽人間」達と共に天に近づいていった彼は、理の外側にあるものを悟る。憐れな「僕」は近すぎる距離から彼女が大好きだった月を独りで眺め、月に見下ろされながら堕ちていく。墜ちる彼が最後に思ったのは、きっと彼女のこと。私は、そこにこの物語の救いを見出した。結局彼は最後まで彼女のことを完全に捨てられてはいなかったのである。愛する彼女の手を「声」の誘惑に魅せられて切り離した事実は覆らない。恐らくその時点で「声」は彼のことを完全に支配下に置いたと錯覚していた。しかし彼の中には彼女を切り捨てたことへの未練や後悔の残滓が確かに残っていたのだろう。それが前述したように彼女が「天人」によって命を弄ばれたという事実を知って呼び起された。そして最後には彼女が「連れてって」と強請った月に向かっていき、彼女を想いながら堕ちていく。結局のところ、徹頭徹尾彼の中には彼女への愛が存在していて、彼女への愛が彼にとっての最悪の事態―声の操り人形に終始して「人そのもの」を完全に捨てる結末―を回避した。だから、私は思うのだ。この物語の最後に希望は見えなかったかもしれないけれど、確かに救いはあったと信じたい、と。

 猪狩くんは愛情深い人だと思う。きっとそれは私なんかよりももっと長い間猪狩くんのことを応援してきたファンの人たちなら当然のように知っているだろうから具体的なエピソードは省くけれど。この物語を読んで、やはり猪狩くんは愛の人だと思った。人間の醜い部分も沢山見ていて知っているけれど、それでもなお、もしかしたらそれ以上に愛の美しさを信じることができる人なのだろうと。勿論、気付かずに栄光に溺れていた方が幸せだったのではないか?とか、そもそも羽なんて生えなければよかったんだ、とか色々思うところはある。そんなところも含めてこの物語は美しい。

それからもう1人、「僕」と共にこの運命に翻弄された存在である彼女。彼女に救いはあったのだろうか。この物語は「僕」を中心に書かれており、彼女の存在は上記の通り僕にとって非常に大きな存在であることは間違いないのだが、意外と彼女自身の人格や生い立ちなどについて触れられている部分はあまりない。読者が彼女についてわかることは「月が好きな女性である」ということ、「僕を愛し、僕に愛された女性であった」ということくらいである。そして、この少ない情報が逆に彼女を神格化しているように思える。声に溺れる前の「僕」にとって彼女は一番の存在であった。きっと、女神を信仰するように彼女のことを愛していた。そして最後に堕ちた「僕」にとっても、きっと彼女は神聖な存在であった。死んだ彼女は堕ちる先にいたのではなく、月と同じ場所にいたのではないだろうか。少なくとも、「僕」はそう考えていたのではないかと思う。美しいままで死んでいった彼女は、死んでも尚彼にとって美しいものであった彼女は、死ぬ時何を思ったのだろう。彼を憎んだか、天人を憎んだか、運命を憎んだか、それとも、聖女のように全てを受け入れたのか、はたまた……。

 

2.理の外側には何があったのか

文章の冒頭で「天」について述べられている。曰く、理の外側で起こるものは「天祐」「運命」であると。そして主人公はその考えを最後に覆している。理の外側には「天祐」よりも大きなものがあると。それに気付いた「僕」は飛ぶのを辞め、堕ちていくのだが。

正直、ここがまじでいくら考えてもわかんないんすよね……。

まず、この答えに辿り着く為に「声」とは一体何なのかを考える必要があると思う。「声」はいつだって「僕」を正しい方向に導く代物であり、「僕」が正しくないことをしようとすると止めるものだった。しかし、この作品において、正しいことは必ずしも「僕」にとって良いことだとは限らなかったのである。作品において、と言ったが「正しい≠良い」という考えは現実にも十分適応されるだろう。凡そ、「正しい」とは客観による判断であり、「良い」とは主観による判断だと考えられる。つまり、「声」とは客観的な判断であり、「声」に支配されることは客観に支配されることだ。それは主観の喪失であり、言い換えると「自我の消失」となる。羽の代償に失うものは「人そのもの」だという。確かに、自我のない個は人とは言えないのかもしれない。「俺は俺」を座右の銘に掲げている猪狩くんからしたら、特に。(ちょっと糸口が見えてきた気がするぞ……?)

では、「声」を絶対的な客観のメタファーであると考えると、対になるもの、絶対的な主観は一体何なのか。それこそが、理の外側にあるものだったのではないだろうか。それに気付いた「僕」は「天」に縋ることを辞めた、つまり、自らの意志で飛ぶことを辞めた。「天」に縋ることをやめ、絶対的な主観を発見した「僕」に絶対的な客観である「声」と共に与えられた羽はもう使えなくなってしまったのだろう。

さて、ここでふと疑問が生まれる。「羽人間」は本当に「天」によって無作為に選ばれたものだったのだろうか?もしかしたら、羽が与えられた人々というのは、自我を手放しかけていた人々だったのかもしれない。物語の冒頭で彼女の友達の友達である売れない漫画家の話が彼女の口から語られる。その漫画家は羽が生えた途端に先程まで描いていたネームを破り捨てたという。普通、漫画を描きたくて描いているのだとしたら羽が生えたからといってすぐさま漫画を描くことをやめたりはしないだろう。漫画家はその時既に、自分の意思で漫画を描いてはいなかったのではないか。生きるため、これ以外に出来ることもないからと、自分にはこれが「正しい」道なのだと言い聞かせながら漫画を描いていたのではないか。そして、羽が手に入り漫画を描かずとも生きていけることがわかった瞬間それを破り捨てた。

そのように考えると、彼女にいつまでも羽が生えなかった理由は、もしかしたら、彼女は強い自我を持った存在だったから、かもしれない。そうだとしたら、前の章で述べた彼女=聖女・女神説にも少し繋がるものがあるのではないだろうか。

 

3.終わりに

さて、気付いたらそこそこの文量を書き上げていた。今回は題材が題材だったので、わりとしっかりレポートを書くような気持ちで文章を練り上げてみた(時折文体が崩れるのはご愛嬌)。本当は月についてやTwitter上の考察で見かけたイカロスの神話との関連性などもう少し考えてみたいこともあったのだが、流石に纏まらなくなりそうなので一旦これくらいでまとめに入ろうかと思う。(気が向いたら追記するかもしれないし、恐らくしない)

私は『堕天』を自我の消失と奪還、また、愛による救済の物語であると解釈したが、きっとこの物語には読み手の数だけ解釈があると思う。当然私のブログを読んでこいつ何言ってんの?って感じる人もたくさんいるだろう。そして、それこそが文学の醍醐味だと思う。

んで、だ。そんな「文学」を何の予兆もなくブログにポイッと放り投げてしまう猪狩くんって、やっぱりやばいアイドルだな、と思うのだ。いや、アイドルって型に嵌めて考えること自体が間違っているのかもしれないけれど。でも、本当に猪狩くんは凄いし、これだから彼からは目が離せない。きっとこれからも、彼は私達の先入観や価値観をぶっ壊してしまうような、想像もつかないようなものを見せてくれるのだろう。「俺は俺」「猪狩蒼弥」のスタンスで。

fence

秋は生命の季節だと思う。実りを成す季節。そして同時に死の季節、冬への入口でもある。夜の帳が落ちきったこの時間は尚更、死の匂いを色濃く感じる。まだ人の多い駅前広場。人工物に埋め尽くされたこの街にも申し訳程度の樹木はある。色付いた落ち葉は無機質な都会の光に照らされて、アスファルトの上でぐちゃぐちゃになっている。汚い。これが森の中ならきっと美しい紅葉の一部になれたのかな。こんな街に植えられちゃったばかりに、可哀想ね。まるでわたしみたい、なんて悲劇のヒロインぶったことは言わないけれど。

 

突如闇が切り裂かれた。

 

これは何の音?サイレン、サイレンだ。耳を劈くような。さっきまで周囲に対し徹底した無関心を貫き落ち葉を踏みつけ歩いていたサラリーマンが、ゲラゲラ笑いながら複数人で屯していた若者たちが、手を繋ぎ寄り添い合うカップルが、派手な装いで客引きをする女が、一斉に足を止め、会話を止め、訝しげに辺りを見渡す。

やがてその視線は一点に集中した。緑色のネオンの下、仁王立ちする1つの影。手に持っているのは、拡声器?ふらりふらりと人々が影の方に引き寄せられていく。街頭に群がる羽虫のよう。わたしも例外ではなかった。近寄るにつれ影の正体がはっきりしていく。若い男だ。黒いスーツをきっちりと身に纏った青年。その双眸は色の濃いサングラスに覆われて見えない。彼のことを訝しみながらも何故か目を離せないわたしたちに向かって、彼は片頬を吊り上げた。聴衆を嘲笑うかのように。

 

ぐるぐるとサイレンの音が渦巻く。その渦の中心に青年は立っている。そっと唇に寄せられた拡声器、口が開いた、瞬間。 

 

わたしの脳を何かが貫いた。

 

何か、とは一体何だ?

それは、言葉だ。彼の唇から紡がれた言葉が拡声器を通して放たれているのだ。そんなことにすら気付くのが遅れてしまうほどの衝撃だった。

彼は言葉を捲し立てる。サイレンの音に合わせ、天を仰ぎ、時折聴衆を一瞥しながら。警告、赤、檻、脅威、概念、王者。紡がれゆく言葉がわたしの脳の範囲を越えて、世界に流れ出していく。駅前広場に溢れ返っていたはずの日常が、彼の発する声で、言葉で、オーラで塗り替えられていく。最早この場で日常を過ごせている者など一人としていなかった。くたびれたサラリーマンも、大学生の集団も、若いカップルも、夜職の女も、普段の役割は放棄され、この異質な空間のオーディエンスでしかないのだった。

瞬く間に世界を作り上げた青年は尚も言葉の雨を降らし続ける。ここは彼の国と成った。彼こそが絶対的な支配者でありわたし達は彼の言葉をその身に受け続けることでしか存在できない。

そうだ、わたし達は所詮何かに支配されることから逃れられないのだ。先程までわたし達を支配していた日常が、常識が、崩れ去って尚わたし達は解放されることなんてなく、支配するものが変わっただけ。何故か?わたし達は解放されることを選ばなかった、選べなかった。そして眼前の青年は間違いなく選んだ者だった。破壊を、解放を、構築を、王座を選んだのだ。

 

わたしは彼とは違う、彼は間違いなく非凡な人間で、わたしは何処にだっている凡人なのだ。これが運命なんだって。

そう諦めることすら彼は赦してはくれなかった。社会の中で生きる為に否が応でも培ってきた諦念さえ彼は壊してみせる。

その圧倒的な力の前から逃げ出すことすらできずに言葉を浴び続ける、さながら拷問だ。ああ、なんて心地良いのだろう。死ぬまでずっとこれに浸ってしまいたい。

そんな気持ちすら頭を頭を擡げたが、その時。

青年の声が止んだ。相も変わらず渦を巻くサイレンは、それでも少しずつボリュームを落としていく。彼は掲げていた拡声器をゆっくりと下げ、目元を覆い隠していたサングラスにそっと手をかける。先程まで投げ掛けていた言葉達はあんなにも荒く重たく鋭利だったのに、一つ一つの所作は息を飲むほど美しかった。サングラスがずれて、切れ長な眼が僅かに覗く。その瞬間、わたしの中で一つの欲が生まれてしまった。

彼の瞳に映りたい。

それは余りに身の丈に合わない愚かな欲望。彼の瞳にわたしが「わたし」として映ることなんてできっこない。今だってそう、彼は口の端を僅かに吊り上げながらわたし達のことを眺め回しているけれど、彼の眼に映るわたし達は所詮彼の作り上げた世界のオーディエンスでしかないのだから。オーディエンスの中から抜け出して「わたし」自身を見てもらうには、わたしは余りに無力な凡人でしかなかった。

やがて空間が緑に染まってゆく。世界を掌握したようなその青年は両手を広げ、スーツの裾を翻してオーディエンスに背を向けた。そのまま緑の光の中に歩みを進めていく。待って、行かないで、わたしをその瞳に映して。大声で叫びたくとも、わたしの喉から漏れるのは荒い呼吸だけだった。

緑の光が強くなってゆく。彼の姿が飲まれてゆく。サイレンが遠ざかってゆく。

待って、待って。

 

「あなたは、だれ?」

 

わたしの口からようやく言葉が形になって零れたのは、彼の姿も緑の光もサイレンの音も全て消え去ったあとだった。

残されているのは、呆気に取られるオーディエンスだった者達と、糸の切れた人形のようにその場にへたりこんだわたしだけ。

 

 

 

※オールフィクションです。深読みしないでください。